球速アップ


皆さんは、大谷翔平選手や佐々木朗希選手のように速い球を投げたいと思いますよね?
本記事では球速アップのトレーニングとそのリスク、また球速が上がることで生まれるメリットについてまとめています。

 

【目次】

1:筋の力―速度関係って何?
2:重さの異なるボールを投げた時の「力と速度」の関係とトレーニングの効果
3:肘への負担と怪我のリスク
4:球速アップで長打のリスクが減少
5:球速と打球速度・角度の関係性は?
6:球速は投手有利なカウントを作るためにも重要?

 

 

 

1:筋の力―速度関係って何?

 

最初に、筋肉の特性について簡単に解説をしていきましょう。
筋には力―速度関係という特性があり、これは、発揮される力が大きくなるにつれて速度が低下していくというものです。反対に、速い速度での運動の時には、筋力はあまり発揮されません。例えば、カラーバットのような軽いバットでは、スイングスピードは速くなりますが、強い打球にはならないですよね。


このことから、最大筋力を高めるためには動き出しの加速度を高めるための高強度低速のトレーニング、最大速度を高めるには高い速度まで加速するための低強度高速のトレーニングの両方が重要になります。
今回は、この力―速度関係の考え方を参考にして、球速を上げるトレーニング方法について考えていきます。



 

図1.力-速度曲線と力―パワー曲線

 

 

 

2:重さの異なるボールを投げた時の「力と速度」の関係とトレーニングの効果

 

 

図2に、異なる重さのボールを投げた時の力と球速の関係を示しました。
力―速度関係に当てはめて考えると、軽いボールを投げた場合、球速は速くなるがボールに加えた最大の力が小さくなります。一方で、重いボールを投げた場合、球速は遅くなるがボールに加えた最大の力が大きくなります。

 

図2.ボールの重さの違いによるボールに加わる力と球速の関係

 

 

つまり重いボールで投げると力発揮を高めるトレーニングとなり、軽いボールで投げると筋の収縮速度を高めるトレーニングになります。このように、異なる重さのボールを用いたトレーニングの効果に関しては、1990年代から多く研究がされるようになりました。
ある研究グループは、通常のボールより約20%重い、もしくは軽いボール(通常の約150gに対して約120gと約180g)を数球~10数球全力で投げることによって、球速が向上したという例をいくつか報告しています 。

※ 硬式球はおよそ140~150g、小学生用の軟式球であるJ号球はおよそ130g これ以上重いボールのトレーニング効果に関しては、まだまだ明らかになっていません。

 

これまでの研究では、13歳から18歳までの38名の中で、通常ボールで投げる19名と異なる重さのボールを投げる19名に分けて、6週間(全力投球は4週間)、週3回の投球トレーニングを行いました。異なる重さは約50g~900gまでのボールをいくつかの投げ方でそれぞれ2-3球投げるという内容でした。

その結果、異なる重さのボールでトレーニングをすると平均で3.6 km/hの向上(通常ボールのみで投げた群は1.1 km/hの向上)しました。また別の研究では、18歳から23歳を対象とした実験で、100g~2000gまでのボールを用いた6週間のトレーニングを実施したが、球速が向上しなかったと報告しています。 このように、通常の20%を超えるようなボールの重さであると球速が向上するかについては、まだ調べていく必要があります。

 

 

なぜ球速が上がるのか?


これらの研究結果からもわかるように、少し重い、もしくは軽いボールを投げると球速の向上につながります。重いボールではボールに大きな力を与えることができ、軽いボールでは腕の振りを速くすることができます。これはまさに、力―速度関係を考慮したトレーニングだと言えますね。

しかし、投球動作は非常に多くの筋の協調や連動によって指先の速度を高めているため、実際にそれぞれ筋の特性がどのように変化したかを把握するのは難しいです。筋の特性よりも、大きな力を出すタイミングや、速筋線維を積極的に動員するというような神経的な適応が球速の向上につながっていると考えられています。

 

 

3:肘への負担と怪我のリスク

 

これまでは、ボールの重さの違いで球速が向上するというメリットの面だけ伝えてきました。実際は、これらの実験で、トレーニングをした19名のうち2名が投球腕以外の故障で、2名が肘を故障し離脱してしまいました。またその後のシーズンで残り15名のうち2名が肘を故障しました。つまりこの実験で17名中4名(24%)が投球腕を故障しました。

 

ピッチングの場合は、バッティングやスプリントと比較すると肘や手首などの末端の速度が高く、肘への負担が大きくなってきます。特に肘関節内反トルク(肘の内側にある靭帯のストレス)が大きくなり、怪我のリスクが高まります。
通常のボールと重いボールを投げた際の肘関節内反トルクは、高校生・大学生では変化がないという報告や、9~14歳ではボールが重くなるにつれて大きくなったという報告があります。このことから経験年数などによる技術的な面も怪我のしやすさが大きく関与してくるかもしれません。

実は、通常のボールでも、球速の上昇と共に肘関節内反トルクも大きくなることが明らかになっています。トレーニング群は球速がアップしたが、肘内反トルクも8.4%大きくなっているという研究もあり、短期間で肘の靭帯への負担が急激に大きくなる影響が懸念されています。

 

 

 

4:球速アップで長打のリスクが減少

「球速と安打率」そして「球速と長打率」の関係について見てみましょう(図3、4)。
安打率と長打率は、全打球の中の安打と長打の割合を示しています。


 

 

図3.球速と安打率

 

 

 

 

図4.球速と長打率

 

 

安打に関しては、球速との関係が小さいことがわかります。単純に、球速が速いからといって安打を防ぐことができるわけではないようです。対して長打は、球速が速くなるにつれてその発生割合がわずかに減少傾向にあることがわかります。
つまり、球速が速い投手は長打を打たれるリスクが比較的少ないといえます。

 

 

 

5:球速と打球速度・角度の関係性は?

それでは、なぜ「球速と安打率」、「球速と長打率」の関係であのような傾向が見られたのか、「球速と打球速度」、「球速と打球角度」の関係に注目してその要因を見ていきましょう(図5、6)。

 

 

図5.球速と打球速度

 

 

 

図6.球速と打球角度

 

打球速度をみると、球速とは大きな関係がみられません。指導現場では、「球速が速いと打球速度も上がってしまう」といったことを耳にすることがありますが、この結果からこの指導が正しいとは言い切れないということになります。
打球角度は、球速が上がるほど低下していることがわかります。これは、球速が速いとよりダウンスイング局面で打球しやすいことや、空振りをしないためにいわゆる当てにいくスイングが増えることが要因だと考えられます。

 

つまり、球速が速くても打球速度は変わらないため安打率には変化がみられませんが、打球角度が小さくなるため長打を打たれるリスクが減少するのだと考えられます。

 

 

 

6:球速は投手有利なカウントを作るためにも重要?

 

最後に打者のスイングに注目して、球速の重要性を考えていきましょう(図7、8)。ストライクゾーンとボールゾーンでのそれぞれのスイング率について見ています。

 

 

 

図7.球速とストライクゾーンスイング率

 

 

 

 

図8.球速とボールゾーンスイング率

 

 

球速とスイング率の関係をみていくと、ストライクゾーンとボールゾーンのどちらでも、球速が上昇するにつれてスイング率も増加することがわかります。これは、球速が上がることで、打者の判断時間が短くなることが要因のひとつだと考えられています。

 

それでは、さらにスイングをした結果はどうなっているのか、球速と空振り率の関係についてストライクゾーンとボールゾーンそれぞれ見てみましょう(図9、10)。

 

図9.球速とストライクゾーン空振り率

 

 

図10.球速とボールゾーン空振り率

 

 

 

ストライクゾーンやボールゾーンともに球速が上昇するにつれて空振りの割合が増えていることがわかります。
球速が速くなると、打者がバットの軌道をボールに合わせる時間も短くなることが要因のひとつといえます。
空振りはとても失点のリスクが低いイベントであるため、球速アップは失点リスクを抑えるためには重要であることがわかります。

また、ボールゾーンでは空振り率がより高く、特に160キロ近い球速を記録できると、4割弱の空振りが期待できます。投手有利なカウントを作りやすくなるという点からみても、球速アップは有効といえます。

 

球速が上がることで多くのメリットが生まれますが、無理なトレーニングをして球速を上げようとすることは、身体への負担が増えてケガのリスクが増してしまいます。
自分の身体を大切にしてレベルアップしていきましょう!

 

 

 

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