皆さんは、毎日素振りをしていますか?また、正しい素振りを知っていますか?
ヒッティングにおける基礎ですが、重要な素振りについて考えてみると面白いことが分かるかもしれません。
本記事では、「素振り」に着目して深堀していきます。
【この記事でわかること】
1.素振り練習には、しっかりと意味がある
2.素振りの回数ではなく、なぜ素振りをするのかを考えることが大切
3.重いバットの素振りの効果はないと考えられている
4.素振りだけでなく、体幹をひねる運動なども取り入れると良い
【目次】
1.素振りの有効性とは
2.どのくらい素振りをすればいいの?
3.加重バットでの素振り
4.素振りに代わる効果的なトレーニングとは?
1.素振りの有効性とは
皆さんは目的をもって素振りをしていますか?素振りの主な目的は以下の3点です。
1.バットを振る力をつける
バットを振り切るためにはそれ相応の筋力が必要になります。その筋力をつける目的で行うものが素振りです。
バットを振り切ることができないとスイングスピードが速くならず、飛距離も出なくなってしまいます。
また、高校野球では900グラム以下の金属バット使用が禁止されており、最低でもこの重さに負けないスイングをしなければなりません。
2.打撃動作の習得
こちらは、自ら考える打撃理論を実際に行う目的の素振りです。
打率を上げる、打球の飛距離を上げるなど理想のヒッティングに向けた素振りを練習し、体得していくことにつながります。お気に入りのプロ野球選手を真似して行う素振りはこちらに該当します。
自らが考えるベストなスイングになるための練習といえるでしょう。
3.打撃動作の再現性を高める
試合中や練習中に「いい感じで打てた!」と感じた経験はありますか?
打撃動作の再現性は、その確率を高める目的で行う素振りです。実戦で良い打ち方ができていても、その確率が低ければ本当にスイングが身についているとは言えません。
どんな状況でもどんなコースでも、理想的なスイングができるようになるための練習といえるでしょう。
また、試合前に素振りをすることで、今日の調子や疲労感なども把握することができます。相手投手のピッチングの様子をみて、それに合わせる練習などもできるので、ぜひ自分に合ったスイングを見つけてみましょう。
素振りは自分の想像次第で、球速やコース、変化など自由自在に変えることのできる練習方法であり、打撃の基礎としてとても有効な練習方法です。
ぜひ、目的をもって素振りに取り組んでみましょう。
2.どのくらい素振りをすればいいの?
素振りが打撃の基礎として重要なことがわかりました。
それでは、どのくらい素振りをすれば良いのでしょうか。
結論からいうと回数制限はありません。
そのため、10回でやめる人やこれ以上振れなくなるまで振り続ける人など様々です。上記の目的を達成するための素振りをしっかりと行うことが最も重要になります。
福岡ソフトバンクホークスの小久保ヘッドコーチは2021年キャンプにて野手陣に1日1000スイングをするよう指導したと言われています。
また、横浜DeNAベイスターズの森敬斗選手は2022年キャンプで1000スイング以上バットを振り続けています。
このように、プロの選手においても数をこなす選手は多くいます。もちろん、試合期にはこのようなトレーニングは行えませんが、オフシーズンに打撃を変えるきっかけとして、取り組んでみるのはいかがでしょうか。
3.加重バットでの素振り
野球を観戦していると、次に打席に入る選手がネクストバッターズサークルで重量のあるリングを装着したバットをスイングしている様子を目にすることがあります。
重いものを持ち上げた後に、軽いものを持ち上げようとすると普段よりも軽く感じるのと同様に、重いバットを振った後に通常のバットを振ると軽く感じて、スイング速度が上昇しているように感じます。
これは、人間が重さという感覚に錯覚をしている現象で、他にもバッティングセンターなどで、150km/hのボールを見た後に120km/hのボールを見ると遅く感じて、打ちやすくなることも似た作用になります。
少し話はずれてしまいましたが、このような加重バットは本当に有効なのでしょうか?
1.スイングスピードの変化
まずは、バットの重さを変えたときにスイングスピードがどのように変化するのかについて下の図を見てみましょう。
図1.通常のバットの重量と異なる重さのバットでのスイングスピードの変化率
いくつかの研究結果を総合的に評価しているため、選手の年齢や細かいバットの重さや素振りの回数などは異なる点は注意していください。
図から考えられることは、バットの重量を変化させたことでスイングスピードの増大にはつながらないということです。
さらに、バット重量が重い、軽いなど通常のバットからかけ離れるほど、スイングスピードの低下の割合が大きくなることがわかります。
2.バットコントロールの変化
それでは、重いバットをスイングした後に通常のバットをスイングした時のバットコントロールはどう変化するのでしょうか?
スイングスピードも重要な要素ですが、ボールをヒットするという観点からするとコントロールも大切になります。
結論として、ある研究結果によると、重いバットを振った後に通常のバットでスイングしてもボールインパクト時におけるバットの芯からボール中心までの距離について、差は認められませんでした。
簡単に言うと、加重バットでの素振りと通常のバットでの素振りでバットコントロールに差がなかったことを表しています。
3.感覚の変化
重いバットを振った前後では、スイングスピードへの感覚はどのように変化するのでしょうか?
ある研究結果では、バットに重り(バットリング)を装着したバットをスイングした直後、打者はバットが軽く感じ、スイングスピードも速くなったように感じているようです。しかし、実際には、スイングスピードは落ちているという結果でした。
これは先程の図1にあった結果を表しているのではないかと考えられます。
そして、スイング回数が増すにつれてバットの重さとスイングスピードに関する打者の感覚は徐々にいつもの感覚に近づいていくことがわかっています。
おおよそ、この感覚のズレは、1分半ほどで回復すると考えられるので、一時的な感覚であると考えられます。
上記の3点から、ネクストバッターズサークルで重いバットをスイングすると、打者の感覚の改善はみられますが、バッティングパフォーマンスを表すスイングスピードとバットコントロールは低下あるいは変化しないことがわかります。
そのため、ネクストバッターズサークルでは、実際に打席で使用するバットの重量とかけ離れた重量のバットを全力あるいは強くスイングすることはおすすめできません。
重いバットを使用するのであれば、身体のストレッチに使用する程度にし、積極的にスイングしない方がバッティングパフォーマンスを低下させる危険を避けることができるでしょう。
これまで、通常のバットの重量からかけ離れた重量のバットはおすすめできないとお話ししましたが、どのくらいの加重であれば有効なのでしょうか?
表1.バットの重さとスイング速度に関する研究
Baseball Geeksより引用
この表は、通常バットと重さを変えたバットでのスイング速度の変化を表しています。
スイング速度が増加したケースと低下したケースを比較してみると、スイング速度が低下したのは、通常のバットより70%以上軽いものでした。
ウォームアップとして素振りで用いるバットを考えると、通常のバットよりも極端に軽いものか、通常のバットと同程度の重さのバットを用いることが有効だと言えます。
バットに取り付けるリングやパワーラップなどはそれ自体がバット1本弱の重さがあるため、バットに取り付けて使用すると通常のバットよりもバットを1.5倍以上の重さになってしまいます。
そのため、このような用具を使って素振りを行う場合には、重い負荷でのスイングになるため、先述しているようなスイング速度が低下する可能性があることを理解しておかなければいけません。
ただし、このウォームアップ効果はいつまでも持続するわけではなく、1分半ほどで消失すると考えられています。
そのため、素振りの効果を継続したい場合には、3球に一回などのペースで、打席を外して再度素振りを行う必要があるということになります。
しかしながら、これらの結果は投球された実際のボールを打撃したものではないため、これだけでは素振りがインパクトの正確性に影響するかどうかは判断しきれないことは注意が必要です。
しかし、少なくとも静止したボールを打撃することにおいては、加重されたバットでの素振りは正確性にプラスの影響をもたらさないと考えられます。
4.素振りに代わる効果的なトレーニングとは?
素振りの目的や、素振りの影響などについて考えていきましたが、スイングスピードを上げることは飛距離向上に重要な要素の1つです。
スイング開始直後からバットに大きな力を加える能力を向上させるためには、爆発的な力発揮を促すエクササイズが必要になります。このエクササイズの特徴は単に高重量の負荷をかけてトレーニングするのではなく、負荷を一気に加速させることにあります。
スイング速度を高めるためには、身体の回転の勢いを向上させる必要があります。この身体の回転は主に股関節の伸展運動によって行われます。
股関節を爆発的な伸展運動のエクササイズの1つとしてバーベルを用いたクリーンが有効だと考えられます。このエクササイズは、高重量のバーベルを膝の高さから一気に肩の高さまで持ち上げることにより、股関節の爆発的な力発揮を高めることに繋がります。
技術が必要なトレーニングでもあるので、行う場合はしっかりと動作の確認などを行いましょう!
また、メディシンボール投げも有効なエクササイズです。
横方向のメディシンボール投げは打撃動作と類似性が高く、打撃動作そのものに負荷をかけたエクササイズになります。野球においては、このような競技に類似した専門的トレーニングを意識することが大切です。
この動作は体幹の回旋に関わる筋を鍛えることができます。
また、このエクササイズではボールを遠くに投げることではなく、体幹と腕の回転をひとつにするイメージを意識して、ボールの速度を高めることが重要です。
今回紹介したトレーニングは難易度の高いトレーニングでもあるため、怪我をする可能性もあります。正しいフォームで行うことが重要です。
素振りは打撃動作の基礎であり、とても重要な練習の1つです。
打席に入る前のルーティンの一つでもある素振りを見直すことで打撃パフォーマンスが改善できる可能性があります。
打撃動作の特異性や実施するエクササイズの効果を理解し、パフォーマンス向上につなげていきましょう!
引用・参考文献
- ビギナーズ (rere.jp):野球は素振りに始まり素振りに終わる!効果的なやり方&スイングのコツとは |(閲覧日2022年9月10日)
- Baseball Geeks:ネクストバッターズサークルで重いバットをスイングするとどうなる?(閲覧日:2022年9月10日)
- Baseball Geeks:スイング速度を高めるためのエクササイズとは?(閲覧日:2022年9月10日)